Cherenkov Telescope Array (CTA) は解像型大気チェレンコフ望遠鏡(IACT)群からなる次世代天文台である。特に大口径望遠鏡初号機LST-1は2018年に竣成した。また、同サイトにて現行IACTのMAGICが稼働中である。現在、エネルギー閾値の低下・感度の上昇を目的とした、MAGIC望遠鏡とLST-1の間に新たな新トリガーを導入する計画が進行中である。このハードウェアトリガーは3台の望遠鏡のトリガー信号を集約し、MAGICとLST-1の同時観測を可能にする。本講演では新トリガーシステムの実装状況、及び性能推定の研究、そして本システムの向上によって期待される探索可能となる物理について話す。
アクシオンやダークフォトン等のWISPダークマターは質量に比例した周波数の転換光子を放出し、0.1-1 meVの粒子の場合1-100GHz程度である。しかし、商用のスペクトルアナライザーでは典型的にO(MHz)しか同時に分光できず、その狭い帯域幅が探索のボトルネックとなっている。そこで、我々は瞬間帯域幅4.096GHzの広帯域分光計「dSpec」を新たに開発した。また、現在探索する質量領域に合わせ、周波数分解能や帯域幅などを変更した性能向上版を開発している。本講演では、設計の詳細や性能向上版の開発状況について報告する。
光子と相互作用する暗黒物質から生じる電磁場によって超伝導量子ビットが励起できること、またその励起確率の測定を通じて暗黒物質が探索できるという考察が近年行われている (Phys. Rev. Lett. 131, 211001 (2023)) 。既存のハロスコープ実験と比べ、この方法は量子ビットの変調を通じて広い質量探索領域を簡単にカバーできる点で優れている。我々は現在この実験のセットアップの実装に取り組んでいる。本講演では、実験の原理とその準備状況について報告する。
新物理発見の根拠をさぐるため、新物理に感度があるベクターボソンから随伴生成されるヒッグスボソンの生成微分断面積とボトムクオークとの結合の強さの測定精度の向上を実現させた。登壇者はその中で、精度向上によく貢献した研究である、ヒッグス崩壊系から放射されるグルーオンの効率的な同定と、重要な背景事象の1つであるダイボソン生成過程の系統誤差の見積もり手法の改善を行った。LHC-ATLAS 第2期実験データを用いてそれら2点の検証をした結果を議論する。
LHC-ATLAS実験で運用されているピクセル検出器はATLAS検出器最内層に位置しており、荷電粒子の飛跡検出を行っている。高品質のデータのみを物理解析に用いるため、データは測定時の検出器状況を総合的に判断して選別される。一方で、検出器に各種問題が生じた場合、それらが実際に測定データに及ぼす影響は未だ判然としていない。本研究では特にハードウェアエラーに焦点を当て、エネルギー損失量測定との関係を評価する。
MEG II 実験において、真空紫外光に感度のある MPPC を高強度ミュー粒子ビーム環境下の液体キセノンガンマ線検出器で使用している。しかし、ビーム運転中、MPPC の光子検出効率が急激に減少した。これまで、いろいろな放射線源をさまざまな条件で MPPC に照射したが、PDE 減少を再現できておらず、PDE 減少の原因は理解できていない。そこで PDE 減少の理解のために、実機の環境下に近い、液体キセノン中で真空紫外光を MPPC に照射し、放射線損傷の影響を調べた。
スーパーカミオカンデはニュートリノ探索を目的とした大型水チェレンコフ検出器である。中性子の検出効率向上のために2020年よりガドリニウム(以下Gd)の溶解が開始され、2023年現在では約0.03%のGdが溶解されている。これにより、Gdによる宇宙線ミューオン由来の核破砕中性子の捕獲事象を用いて様々な較正を行うことが可能となった。本講演では、核破砕中性子を用いたスーパーカミオカンデ検出器全体におけるエネルギースケールの位置依存性や時間的変動の連続評価について報告を行う。
T2K実験はCP対称性の破れを検証することを主な目的とした⻑基線ニュートリノ振動実験である。SuperFGD検出器は約200万個のシンチレータキューブからなり、系統誤差削減のため2023年に新型前置検出器の1つとして導入された。SuperFGD検出器の実際の運用において不良チャンネルの存在が報告されている。本講演では、不良チャンネルが存在する状況における新型前置検出器を用いた再構成手法の性能評価について述べる。
T2K実験の後継であるHyper-Kamiokande実験では前置検出器において、水を標的とする検出器を用いて水-ニュートリノ反応断面積の精密測定が検討されている。その候補の一つとして水ベース液体シンチレータを用いた検出器を開発している。本講演では、2022年秋に陽電子ビームを用いて行ったビームテストの結果とその後の検出光量の向上に関する研究を発表する。
The North American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves (NANOGrav) collaboration recently published its 15-Year Data Set, providing substantial evidence for a nHz background of gravitational waves and marking an exciting milestone for pulsar timing arrays. Since the publication of our 12.5-Year Data Set, which strongly suggested the presence of a common red noise process in NANOGrav’s...
オンライントリガーでは、高速で運動量分解能とトリガー効率を高めることが重要である。今後増加すると予想されるイベントレートに対応するためには、現在の LHC- ATLAS 実験のトラッキング手法では、より多くの計算時間, 計算機台数, 消費電力量が必要となる。そこで、並列計算の効率化・低消費電力を備えたヘテロジニアスコンピューティングと、それらと相性の良い機械学習を組み合わせたトラッキングが改善案の一 つとして考えられる。本講演では、機械学習を用いたヘテロジニアスコンピューティングの可能性と性能について議論する。
標準模型を超える物理の探索において、LHC-ATLAS実験で開発された中性長寿命新粒子探索のためのDisplaced Vertex Triggerは、これまで検出困難であった特異な事象の捕捉を可能にする。このトリガーシステムは、衝突点から離れた場所で崩壊するLong-Lived Particlesの特性を捉え、従来のトリガーよりも高い効率でBeyond Standard Model事象を選別する。本講演では既に開発されたこのトリガーを用いて、SUSYの長寿命ニュートラリーノシミュレーションで効率評価を行った結果について報告する。
HL-LHC ATLAS 実験に向けて開発中のミューオントリガー回路は、主にヒットデータのバンチ交差識別を⾏う前段回路とトリガー演算を⾏う後段回路で構成される。トリガー演算は固定レイテンシーで行うため、両回路間のヒットデータの送受信は固定位相で⾏う必要がある。本番運用に向け、現在手動で行なっている、前段回路で⽤いるパラメータや後段回路におけるラッチのタイミングの制御を自動化させたい。加えて、本システムが的確な稼働をモニターする機構も必要である。発表では本課題に対する開発や試験結果を報告する。
本研究ではRun3で導入されたL2InsideOutの評価をおこなった。Run2までのATLASソフトウェアトリガーは検出器内で交差するミューオンの再構成を苦手としていた。これは外側の検出器を元に飛跡を再構成するアルゴリズムに起因しており、Bの物理において不利であった。そこで、Run3から内側から外側の検出器に向けて飛跡を再構成するL2InsideOutが導入された。このL2InsideOutのモニタリングシステムの問題点を修正し、評価を行った。
機械学習を用いたトップクォーク識別ツールの開発を行った。これまでに、深層学習(DNN)を用いて、特徴量ではなく、事象中の粒子の情報(low-level data)を直接DNNに入力して識別を行う手法を開発してきた。本研究では、先行研究(ILCなど)で開発した手法を、LHC実験でのトップクォーク識別に適用し、性能を評価している。その現状について発表する。
MEG II実験では新物理の証拠となるμ→eγ崩壊を探索する。背景事象同定用の検出器がターゲット上流側と下流側に設置される。特に上流側の検出器は大強度かつ低運動量ミューオンビームが通過するため、その開発には厳しい要請が課されている。上流側の検出器として開発しているのが、Diamond-Like-Carbonを高抵抗電極に使用したResistive Plate Chamberである。検出器の電極のギャップを保持するピラーの形成が原因で検出器の動作の不安定性が問題となっていた。本講演では、電極構造を改善した検出器での動作試験を報告する。
量子の世界では古典論での常識が通用しなくなる。光子が1つでも複数の波として干渉する現象を捉えるために、今回は一光子検出可能なMPPCを用いてた一光子レベルでのヤングの二重スリットの干渉実験や量子もつれを用いた量子干渉実験を紹介する。
2027年に稼働予定のハイパーカミオカンデ(HK)はニュートリノや陽子崩壊などの観測を目的とした巨大な水チェレンコフ検出器である。現在、HKで用いられる予定の50 cm PMTについて様々な性能評価が行われている。本研究は50 cm PMTのダークレートとゲインの長期測定による長期的な安定性の検証を目的としている。本講演ではその途中経過として、約7ヶ月間の測定でのダークレートとゲインの変動や安定性などを報告する。
将来の加速器実験に向けて「高精細」・「二重読み出し」・「ピコ秒レベルでの高時間分解能 」という性能を融合した次世代カロリメータ技術の開発を行なっている。その要素技術として高精細かつ読み出しチャンネルの減少を実現できる、ストリップ型のシンチレータをMPPCで読み出す検出器の開発している。本シンポジウムでは実測、シミュレーションを通して複数の読み出し方法を比較した結果について報告する。
素粒子物理学における散乱現象は、場の量子論によって記述される。量子計算機を用いると、場の量子論のダイナミクスの、非摂動的かつ多項式時間での数値計算が可能になると考えられている。そこで、本研究では、量子計算機を用いた実スカラー場の散乱現象のシミュレーションのアルゴリズムを実装する。量子計算機を模した古典計算機を用いて量子アルゴリズムの妥当性を検証するとともに、数値計算の収束性を議論する。
Belle II実験は、入射の影響により生じる背景事象(Beam background)を防ぐためにinjection vetoを採用しているが、今後の高いLuminosity環境でも円滑なデータ収集を続けるためにはこの系統の改良が必要である。本講演では、ビーム背景事象の状況に応じたActive injection vetoシステムの開発について説明する。
Belle II実験のエンドキャップ部の荷電K・π中間子の識別を担うARICH検出器はエアロゲルと光検出器により、チェレンコフリングを検出する。現在運用中の光検出器HAPDは生産終了のため将来のアップグレードでMPPCへの置換が検討されており、MPPC用に新たなASICを開発中である。これには1光子検出とダークパルス分離性能が要求され、本講演ではレーザーパルス光とMPPCを用いて行ったASICの性能評価を報告する。
原子核反跳に伴い、ミグダル効果と呼ばれる追加の励起や電離を起こす現象が低確率で生じうると考えられている。このミグダル効果観測が暗黒物質探索に応用されれば、エネルギー閾値が下がり感度が向上する。MIRACLUEは中性子ビームを用いてミグダル効果観測を目指しており、昨年4月にAISTでガスXe検出器を用いたビーム試験を行った。本講演ではビーム試験の測定結果について報告を行う。
方向感度をもつ暗黒物質の直接探索実験であるNEWAGEは、ガスTPCを用いた反跳原子核の3次元飛跡再構成技術を用いて探索を進めてきた。更なる感度向上のため、読み出し検出器表面からのα線や素材由来のラドン放出量の低減を目的とした低バックグラウンドマイクロパターンガス検出器を開発し、神岡での地下実験への導入を行った。本講演ではこの検出器の性能評価結果について報告する。
GRAMS実験は液体アルゴンTPC(LArTPC)を用いて宇宙MeVガンマ線および宇宙反粒子の検出を目指す気球・衛星実験である。2023年7月にJAXA大樹航空宇宙実験場にて、LArTPCの気球運用技術の確立と宇宙線データの取得を目的に、10cm角の簡易的なLArTPCを用いて気球工学試験を実施した。本発表ではこの気球工学試験のフライト概要およびフライト中に取得したデータに関して報告する。
J-PARC KOTO実験では、中性K中間子の稀崩壊KL→pinunuを探索している。荷電K中間子による背景事象を削減するために、0.2mm厚の薄いプラスチックシンチレータの表面から出たシンチレーション光を集めて光量を獲得する荷電粒子検出器を開発し、KOTOビームラインに設置した。本講演では、この荷電粒子検出器の特徴や2023年の夏に取得したデータを用いた荷電粒子検出効率や獲得光量などの性能評価について報告する。
冷却された分子は対称性の破れの測定、量子コンピューターの分野、物理定数の測定で用いられ、分子をいかに冷却するかが注目を集めている。本実験ではカイラル分子の超高精度分光により鏡像異性体間の励起エネルギー差を検出し、パリティ非保存を観測することを最終的な目標としている。そのためには数Hzもの周波数精度での測定が必要であり、まず現在最高精度の分光を目指している。
Th-229原子核は、8 eVという原子核としては例外的に低エネルギーの第一励起状態(アイソマー状態)を有し、原子核の遷移を利用した原子核時計の候補として期待されている。今年、8 eV励起状態からの脱励起に伴って放出された真空紫外光(波長150 nm程度)を初めて観測したという報告がなされた。現在我々のグループは真空紫外レーザーによるアイソマー状態への直接励起に向けた研究を進めており、今回はレーザー開発の概要と進捗について説明する。
現在、2020年代後半に行われるLHC-ATLAS実験のアップグレードに向けて、ITkモジュールのPreProductionが進められている。PreProductionにおいては、本格的なITkモジュールの量産に向けて様々な試験が行われているが、その結果の系統的な評価についてはあまり進んでいない。そこで、今後の品質管理試験の効率や信頼性を向上させていくために、電気回路読み出し試験に関しての解析を行い、現状の測定基準が妥当であるかの検証を行った結果を報告する。(192文字)
FPGAを用いた高度な論理回路(例えば、高輝度LHC-ATLAS 実験におけるトリガー用論理回路)の開発は、優れた物理実験を実現するために必要不可欠となった。一方で近年、FPGAに実装されるファームウェアは大規模化・複雑化が進み、その検証機構の高度化が必須となっている。本研究では次世代のファームウェア検証機構として、FPGAアクセラレータの応用に注目する。CPUを起点とした入出力を実装することで、ファームウェア検証プロセスを簡略化し、柔軟な入出力の検証を可能にするシステムを開発した。
Th229原子核の第一励起状態は、8eVという原子核としては例外的に低いエネルギーを持ち、半減期が10^3秒程度のアイソマーであるため、レーザー制御による原子核時計に応用できる唯一の準位とされている。原子核時計は原子時計よりも高い精度が実現可能だとされ、標準モデルを超えた物理学の探索への利用が期待されている。本講演では我々が取り組んでいる高輝度放射光X線を用いたTh-229アイソマーの脱励起光観測について紹介する。
スーパーカミオカンデでの超新星背景ニュートリノ(DSNB)探索の主な背景事象に、大気ニュートリノと酸素原子核とのNCQE反応がある。この反応の予測精度を上げるために、酸素16ビームを用いた(p,2p)、(p,np)反応を測定する実験が計画されている。本発表では、この実験に向けて行なったシミュレーションについて報告する。
ハイパーカミオカンデとはニュートリノと核子崩壊を探る大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置である。本研究ではハイパーカミオカンデで用いる50 cm径の光電子増倍管の時間性能やゲイン等の性能の入射位置依存性について調査した。位置依存性の調査報告のほか,性能位置依存性を詳細に調査するために構築した,ロボットアームを用いた装置について発表する。
「高精細カロリメータ」技術,「二重読み出しカロリメータ」技術,ピコ秒オーダーの時間分解能技術を統合した,高いエネルギー分解能を持つ次世代カロリメータの開発を行なっている. 本研究では,これらの技術を融合したカロリメータのエネルギー分解能をシミュレーションにより評価し,その結果を報告する.
ダークマターハロスコープ実験において、現在までに複数の手法による空洞共振器内の周波数変調が提案されているが、どの手法も一長一短であり決定的なものは確立されていない。そこで、我々は空洞共振器内にSQUID型の超伝導量子ビットを導入し、それにより生じるLamb shiftの強弱によって共振周波数を変調させる機構を新たに開発し、実験系に導入、ダークマター探索実験を行うことを目指している。本講演では、当探索実験の現状と本研究の今後の展望について報告する。
高輝度LHC-ATLAS実験では加速器の高輝度化に対応するため、初段ミューオントリガー回路系が刷新される。ミューオントリガー回路は、Sector Logicボード上の大規模FPGAに実装される予定で、これまでにファームウェアの雛形が完成している。そこで本研究は、実機上で動作する試験システムを構築し、モンテカルロデータに対するトリガー効率を測定することで、実装されたトリガーロジックの性能評価を行なった。